し。小日向臺の王者の觀あり。和田垣博士の門内に、偉大なる檜葉の樹あり。云ふ是れ東京市中の檜葉の最も大なるものなりと。主人の博士も、この檜葉の如く、當代一種の偉人として世に仰がる。内に誠を藏し、血と涙とを湛へて、包むに奇才と博識とを以てし、或は磊落に、或は飄逸に、或は奇拔に、或は嚴正に、或は滑稽に、卓然として名利の※[#「くさかんむり/大/巳」、46−12]より逸出せる博士の人格は、今の世、絶えて其比を見ず。人も木も共に小日向臺の名物也。
 なほこの臺には、新渡戸博士も住めり。英詩人野口米次郎氏も住めり。舊會津侯、舊津輕侯の屋敷もあり。徳川家の別莊もあり。さばかり壯大なる屋敷もなく、また陋屋も無し。小日向神社境内の稻荷祠畔は、眺望開けたり。小日向臺の西南端は久世山とて、眺望は更に佳也、凡そ一萬坪、今に空地として存す。少し手を加へて、市の一公園となさむは、如何にや。
 何ぴとの子にや、まだ幼少なる女の雜種兒の、日夕この臺を上下するものあり。服裝、洋にあらず、和にあらず、ちぐはぐの樣せるに、行人目をそばだてざるは無し。この兒、學校にゆきても、誰も相手にするものなく、悄然として獨り遊ぶなりと聞
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