六十あり。『もとはずつと多かりき。眞の名は龍眼寺なるが、萩多き故萩寺と稱す。その萩を植ゑたるに就き二説あり。其の一は、住持博奕を好み、殊に上手なりければ、往いて相手になる者、みな負けて剥取られたり。囚つて世人、剥寺と稱す。後の住持一計を案じ、萩を植ゑて、剥寺を變じて萩寺となしたりと。其の二は、もと此のあたりには追剥多く出でたれば、因つて世人、追剥を略して剥寺と稱す。住持萩を植ゑて、萩寺と稱せしむるに至れりと。二説いづれにしても、禍を轉じて福となす。氣の利きたる住持也。徒然草の榎木僧正とは、あべこべなり』と、夜光命説明すれば、『その榎木僧正とは』と山神問ふ。『良覺僧正とて極めて腹立ち易き坊主あり。坊の傍らに榎木ありければ、世人冷かして榎木僧正といふ。僧正怒りて榎木を切る。切株なほ存す。世人因つて切株の僧正といふ。僧正愈※[#二の字点、1−2−22]怒りて、其の切株を掘り取る。其の跡池となる。世人因つて堀池の僧正と云へり』と夜光命重ねて説明す。裸男、山神を顧み、『卿も榎木僧正の仲間に非ずや』と云へば、『口が惡い』とて嗔る。『その嗔るが兪※[#二の字点、1−2−22]以て榎木的なり』と冷かせ
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