で、かゝる句を咏み得るものあらむやと言はれ、吉原第一も今日限りと、齒をくひしばり、わつとばかり泣き伏す。
水莖の跡うるはしき一片の玉章は、牛と鳴き、狐と鳴きし蜀山人を吉原に呼び寄せぬ。桃と櫻を兩手にもちて、どちが桃やら、櫻やら、右に鵬齋先生、左に蜀山人、天下の風流はわが一身に集まれりと、小さき鼻うごめかしけるが、蜀山人の書き殘したる一筆、※[#「冫+虫」、37−13]の字を何と讀むぞと、宿題をかけられて、はてな/\、二水に虫、玉篇にもなく、康起字典にもなし。又も閉口して、ひそかに鵬齋の智慧を借りて、うれしや/\、
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風月を裸になして角力かな
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と分り、につと笑つて、なじみの日の來たるを待つ。
世は何處まで下りゆくことぞ。大正の聖世、學者はあり、文人はあり、歌人はあり、俳人はあり、記者はあり、小説家はあり、娼妓はあり、藝妓はあり、高等の内侍はあり。而して鵬齋なく、蜀山なく、花扇なし。[#地から1字上げ](大正五年)
底本:「桂月全集 第一卷 美文韻文」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年5月28日発行
入力:H.YA
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