亜太郎の死を知らせたのだと戸田がつけ加えた。すると川口不二は、荷物の整理をしながら亜太郎を殴り殺す位の余裕は持てたとしても、とてもその屍体を折曲がった廊下を隔てて隣りの東室へ運び込み、あまつさえ写生の道具などをも運んで贋《にせ》の現場を作り上げるなどと云う余裕は持てないことになる。けれどもこれとても二人の証人の云う事を頭から信じてしまう必要はない。仮に信用するとしても、湯にひたったり薪を割りながら、少しも眼を離さずに二階ばかり見ていたなどと云うことがありよう筈はない。では、ひとまず仮りに不二を潔白であったとすれば、いったい誰れが亜太郎を殺して運んだのか? 不二と亜太郎の以外に、もう一人の人物が二階にいたと考える事は出来ない?
司法主任はウンザリしたように、椅子に腰を下ろしながら不二へ云った。
「奥さん。もう一度伺いますが、あなたが南室で荷物の整理をしていられた時に、御主人は、あなたと同じ南室で、絵を描いていられなかったですか?」
「主人は南室などにいませんでした。そんな筈はありません」
「では、廊下へ通じる南室の扉《ドア》は開いていましたか?」
「開いていました」
「廊下に御主人はい
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