とした事か疑いもなく南室から見える木立と同じように、明かに白緑色を呈している。
「先晩、調べてみましたがね」大月が云った。「あれは合歓木《ねむ》の木立でしたよ。そら、昼のうちは暗緑色の小葉《こば》を開いていて、夕方になると、眠るように葉の表面をとじ合わせて、白っぽい裏を出してしまう……」
「成る程……判りました。いや、よく判りました。つまり川口は、あの時、この景色を描いていたんですね」
「そうです」
「じゃあ、それからどうなったんです?」
「……ねえ、主任さん」と大月が開き直った。「私達は始めての土地へ来ると、よく方位上の錯覚を起して、どちらが東か南か、うっかり判らなくなることがありますね。……当時の亜太郎も、きっとそれを経験したのです。で、東京を出る時に、見送りに来た白亭氏から、妙な注意をされて、なにも知らない川口氏は、なんのことかさっぱりわからず、持ち前の小心でいろいろと苦に病み、金剛氏等の云うようにすっかり鬱《ふさ》ぎ込んでしまったのでしょう。けれども目的地に着いて、この地方の美しい夕方の風光に接すると、画家らしい情熱が涌き上って来て、心中の疑問も暫く忘れることが出来、早速|東室
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