のを見せて下さい」
大月氏の言葉に、歩きながら警部補は、不機嫌そうにポケットからハンケチに包んだ例のナイフをとり出した。
大月氏は、歩きながらそのナイフを受取って、電気の光をさしつけながら象牙の柄に彫られた文字を読みはじめた。がやがてみるみる眼を輝かせながら立止ると、警部補の肩をどやしつけた。
「あなたは、この日附が見えなかったんですか? まさか盲じゃアあるまいし……ね、二月二十九日に誕生日をする人は二月二十九日に生れたんでしょう。ところが二月二十九日は閏年《うるうどし》にあるんで……だからこの人の誕生日は四年に一度しか来ないわけで。その人が十七回の誕生日を迎える時には、幾つになると思います。……六十過ぎですよ」
「判った」
警部補があわてて馳け出そうとすると、大月氏は不意に手を上げて制した。
直ぐ眼の前のひときわ大きな灌木の茂みの向うで、ガサガサと慌しげな葉擦れの音がした。人々は足音を忍ばせて近寄った。茂みの蔭を廻ったところで、警部補が懐中電燈の光をサッと向うへ浴びせかけた。
思ったよりも小さな、黒い、四つン這いになったものが、苦しそうにチンバをひきながら、それでも夢中で草
前へ
次へ
全31ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング