人間」に傍点]じゃアないですね」
「よく判りました。とにかく、早速下りて見ましょう」
 警部補の発言で、人々は自動車《くるま》を捨てて谷際《たにぎわ》へ立った。ヘッド・ライトの光の中へ屈み込んで調べると、間もなく道端の芝草の生際《まぎわ》に、クーペが谷へ滑り込んだそれらしい痕がみつかった。
「この辺《あたり》なら下りられますね。傾斜《スロープ》は緩《ゆる》やかなもんですよ」
 夏山警部補はそう云って、山肌へ懐中電燈をあちこちと振り廻しながら、先に立って下りはじめた。
「夏山さん」後から続いて下りながら、大月氏が声を掛けた。「それにしても、犯人が堀見氏のお嬢さんだって、なにか証拠があるんですか?」
「兇器ですよ」警部補は歩きながら投げ捨てるように云った。「婦人持ちの洒落《しゃれ》たナイフに、十七回誕生日の記念文字が彫ってあるんです。しかも、今年の春の日附まで……そして、お嬢さんの富子さんは、今年十七です」
 大月氏は黙って頷くと、そのまま草を踏付けるようにしながら、小さな燈《あかり》をたよりに山肌を下りて行った。が、やがてふと立止った。
「夏山さん……生れて、二つになって、第一回の誕生日
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