とにしたのだった。エヴァンスは、まだ富子が子供の頃から、堀見家と親しくしているアメリカ生れの老婦人だった。富子が女学校に這入る頃から、富子の家庭教師ともなって富子に英語を教えて来た。彼女は富子を、自分の娘のようにも、孫のようにも愛していた。
 別荘には、留守番をする母娘《おやこ》の女中がいた。大月氏の慌しい電話を受けて、最初に深い眠りから醒《さま》されたのは母の方のキヨだった。
 睡《ねむ》い眼をこすりながら電話口に立ったキヨは、相手の異様な言葉に驚かされて直ぐに戸外に出て見たのだが、車庫《ギャレージ》にあるべき筈の自動車がなく、表門が開け放されているのをみつけると、なんて物好きなお客さまだろうと思いながら、客室の扉《ドア》を開けてみたのだが、開けてみてそこのベッドの横にパジャマのままの押山が、朱《あけ》に染って倒れているのを見ると、そのまま電話口へ引返した。
 大月氏への返事を済すと、キヨは直ぐに警察へ掛けた。掛け終ってそのまま動くことも出来ずに、顫えながら電話室に立竦《たちすく》んでいた。
 夏山警部補は、重なる電話にうろたえながらも、とりあえず一部の警官を有料道路《ペイ・ロード》
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