中で?……むろん、逢わなかったさ……うん大変だよ、よしよし、ありがとう……。

 ――ああ、もしもし、熱海署ですか?……当直の方ですか?……僕は大月弁護士ですが、誰れかいませんか?……夏山《なつやま》さん?……いいです、代って下さい……。
 ――夏山警部補ですか?……大月です……いや、却って失礼しました……ところで突然ですが、一寸妙な事件が起きましてね……実は箱根口の有料道路《ペイ・ロード》の停車場《スタンド》にいます……ええ、自動車の轢逃げなんですがね、それがとても妙なんです、ただの轢逃げ事件だけじゃアないらしいんです……ええ……、そうです……ええ、……むろん、追ッ馳けましたよ……両方の停車場《スタンド》を閉塞して、有料道路《ペイ・ロード》へ追い込んだんです……ところがいないんです……本当ですとも……え?……ええ、ええ、お待ちしてます……そうですか、じゃあ大急ぎで来て下さい……ああ、それからね、オート・バイでなしに、自動車で来て下さい……ええ、僕の自動車《くるま》は、怪我人を乗せて、箱根へやっちまったんです……なんしろ大怪我ですからね……じゃあ後ほど、さようなら……。

 ――ああ、
前へ 次へ
全31ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング