の陣立てを見て、ひどくうろたえはじめた。が、直ぐに警官達に依って包まれてしまった。
東屋氏は、署長、丸辰を従えて、船橋《ブリッジ》へ馳け登って行った。そこには運転手らしい男が、逃げまどっていたが、東屋氏が、
「船長《マスター》を出せ!」
と叫ぶと、
「知らん!」
と首を振って、そのまま甲板《デッキ》へ飛び降りた。が、そこで直ぐに警官達と格闘が始った。その様を見ながら、どうしたことかひどくボケンとしてしまった丸辰を、東屋氏はグイグイ引張りながら、船長の捜査を始めだした。
船長室にも無電室にもみつからないと、東屋氏は、船橋《ブリッジ》を降りて後甲板の士官室へ飛込んだ。が、いない。直ぐ上の、食堂にも、人影はない。――もうこの上は、船首《おもて》の船員室だけだ。
東屋氏は、丸辰と署長を連れて、前甲板のタラップを下り、薄暗い船員室の扉《ドア》の前に立った。耳を澄ますと、果して人の息使いが聞える。東屋氏は、すかさず扉《ドア》をサッと開けた。――ガチャンと音がして、室《へや》の中の男が、ランプにぶつかって大きな影をゆららかしながら、向うへ飛び退《の》いて行った。けれども次の瞬間、激しく揺れ続ける吊ランプの向うで、壁にぴったり寄添いながら、眼を瞋《いか》らし、歯を喰いしばって、右手に大きな手銛を持ってハッシとばかりこちらへ狙いをつけたその船長《マスター》を見た時に、丸辰がウワアアと異様な声で東屋氏にだきついた。銛が飛んで、頭をかすめて、後ろの壁にブルンと突刺さった。が、署長の手にピストルが光って、直ぐに手錠のはまる音が聞えると、丸辰が顫え声を上げた。
「そ、その男は、死んだ筈の、北海丸の船長《マスター》です!」とゴクリと唾を呑み込んで、肩で息をしながら、「そ、それだけじゃアない……いやどうも、さっきから変だと思ったが、あの運転手も、それから、甲板《そと》で捕まった水夫達も、ああ、あれは皆んな、死んだ筈の北海丸の乗組員です!」
「な、なんだって?」あとから飛び込んで来ていた隼丸の船長が、蒼くなって叫んだ。「飛んでもないこった。じゃア、いったい、それが本当だとすると、釧路丸の船員達は、どうなったんだ?」
するとこの時、いままで黙っていた東屋氏が、振返って抜打ちに云った。
「釧路丸は、日本海におりますよ」
「え※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
船長がタジタジとなった。
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