たということになって、半年ほど前に、すごすご帰って来たんです」
「ふむ、それで……」
「……それで、大変朗かな娘さんでしたが、それからはガラッと人間が変ったようになりました……そんなふうですから、自然と父親の風間さんからも、なにかにつけて、いつも白い眼で見られていたようです。……全く、考えてみれば、気の毒です……」
そう言って三田村技手は、思わず自分の軽口を悔むような、いやな顔をして両手を揉《も》み合わせた。けれども、いままでじっと聞いていた東屋氏は、やがて暗い顔を上げると、呟《つぶや》くように言った。
「……ぼくは、あの暴れ石のからくりを弄《ろう》したものが、なんだかわかりかけてきたようだ」
「いったいそれはだれです! 娘さんですか、それとも……」
「もちろんそれは、娘のミドリさんだよ」
とそれから東屋氏は、そばの椅子へしずかに腰を下ろし、両膝《りょうひざ》に両肘《りょうひじ》をのせて指を前に組み合せ、ためらうように首を捻《ひね》りながら、ボツリボツリと切り出した。
「……これは、どうも少し、臆測《おくそく》に過ぎるかもしれない……けれども、どうしてもぼくの想像は、こんなふうにばかり傾いてくるんだ。それに、どうもロマンスというやつは、畑違いでぼくには苦手だが、ま、……ここに一人の、純心な灯台守の娘があったとする。あるとき難波船から救い上げた一人の船員と、彼女は恋に陥る。ところが父親は非常に厳格な人で、娘のそのような気持を受け容《い》れない。当然若い二人は、相携えて甘い夢を追い求める……けれども、やがて彼女の身に愛の実の稔《みの》るころには、おとこの心は船に乗って、遠い国へ旅立つ……そしてひとすじの心を偽られた彼女は、堪え難い憎しみを抱いて、故郷へ帰る……けれども父親の冷たいもてなしは、彼女の心を狂おしいまでに掻《か》き立て、そして夜ごと日ごとに沖合をとおる夢のような船の姿は、彼女の心に憎しみの極印を焼きつける。おとこへの憎しみは船乗りへの憎しみとなり、船乗りへの憎しみは船への憎しみとなり、船という船を沈めつくさんとしてか、とうとうきびしい掟《おきて》を犯して船乗りの命の綱の灯台へ、ガスの深い夜ごとに、看守の居眠り時を利用して沙汰《さた》限りの悪戯《わるさ》をしかける……けれども、ある夜とうとう看守にみつけられた彼女は、驚きのあまりそばにありあわせた手斧《ておの
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