てばかりいた。偶々《たまたま》看護人でも近寄ろうものなら大声を上げて喚《わめ》き出す始末で、他人の患部へ手を触れることを烈《はげ》しく拒絶するのだった。けれども流石に院長にだけは神妙に身を委せ、時どき繃帯をとり替えて貰っては辛《かろ》うじて清潔を保っていた。
以上三人の患者達は、どちらかと云えばみんな揃って温和な陽性の方で、赤沢病院が潰《つぶ》れようと潰れまいとそのようなことにはとんとお構いなく、狭い垣の中で毎日それぞれの営みにせっせと励んでいたのだが、それでもだんだん看護が不行届になったり食事の質が落ちて来たりすると、陽気は陽気ながらも一抹の暗影が気力にも顔色にもにじむように浮出して来て、それが常にない院長の不興の嵩《かさ》みにぶつかったりすると、ひどく敏感に卑屈な反映を見せたりして云うに云われぬいやァな空気がだんだん色濃く風のように湧き起っていった。そしてその風は追々に強く烈しく旋風《つむじ》のように捲きあがって、とうとう無惨な赤沢脳病院の最後へ吹き当ってしまったのだ。
それは何故か、朝から火葬場へ通う自動車の行列が頻繁で、絶えず禿山の裾が煙幕のような挨に包まれた、暑苦しい日
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