越して行く……そしてそこで、死んだ筈の主人とうまく落合う……おおかた、そんな風にするつもりじゃアなかったでしょうかね。……いやとにかく、あの院長も気の毒な位いあせっていたらしいが、しかしどうも、ああ云う無邪気な連中を囮《おとり》に使ってのこんな惨酷な仕事には、好意はもてませんね」
 博士はそう云って司法主任の顔を見たが、ふとなにかを思い出して、いまいましそうな顔をしながら、ちょっと威厳をつくろって附加えた。
「いやしかし、いずれにしてもこの事件には、教えられるところが多々ありますよ……誰でも、気をつけなければいけませんな」
[#地付き](「新青年」昭和十一年七月号)



底本:「とむらい機関車」国書刊行会
   1992(平成4)年5月25日初版第1刷発行
   1992(平成4)年5月25日初版第1刷発行
底本の親本:「新青年」博文館
   1936(昭和11)年7月号
初出:「新青年」博文館
   1936(昭和11)年7月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野晋
校正:川山隆
2009年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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