ろの代物なんです。例えばまず第一に、不明瞭なこの事件の動機です。そして昨晩ラジオの演芸時間の始まる頃から、急に変られた深谷氏の妙な態度――しかも夫人は、深谷氏の怯えるような独言を聞かれました。いったい深谷氏は『明日の午後』つまり今日のこの午後までに、なにを待ち恐れていたのでしょう? そして又桁網にいっぱい詰ったマベ貝――しかも早川は、私達にそれを見られることをひどく恐れていました――。更に又、夜中にヨットへ乗る深谷氏の奇癖。そして、むっつりした邪険な、それでいてひどく海には執心のあった妙な生活。白い柱《マスト》の尖端《さき》の信号燈――等々です。で、これらの謎を解くために、最も常識的な順序として、ただ一つの現実的な手掛かりであり、私の最も興味を覚えた品である、このマベ貝の研究にとりかかりました。この方面で生活している私が、いまさらマベ貝の研究などを始めたんですから、全くお恥かしい次第です。ところが、そうして色々ひねくり廻しているうちに、私はふとこの貝が近頃人工真珠養殖の手段として、少しづつ実用化されるようになって来た事実を思い出したんです。これはマベ貝が、普通の真珠貝、つまりアコヤガイ
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