通り交換局へ問合した。そしてその呼び出しを依頼して電話室を出ると、廊下伝いにホールの方へやって来た。
そこでは深谷夫人と黒塚を相手にして、東屋氏が何か尋ねているところだった。
「――すると御主人は、十年前に日本商船をお退《ひ》きになると、直ぐにこちらへお移りになったんですね」
「左様でございます」
夫人が答えた。
「で、下男の早川は何年前にお雇いになりましたか?」
「恰度その頃からでございます」
「お宅でお雇いになる以前に、早川は何処にいたかご存じですか?」
「あの男の雇入れに関しては、全部主人の独断でございましたので、私は少しも存じませんが――」
「ああそうですか」と東屋氏は頷きながら、
「ところで、あの船室《ケビン》の前の白い柱《マスト》の尖端《さき》へ、御主人が燈火《あかり》をお吊るしになったのは、度々のことではないですね?」
「ええ、それはもうほんの、年に一度か二度のことでございます」
「ではもうひとつ、これは、妙なことですが、昨晩お宅では、ニュースの時間に、ラジオを掛けてお置きになりましたか?」
「ええ、あれはいつでも掛っております」
「有難うございました」
東屋氏は紙巻《シガーレット》に火を点けて、ソファの肘掛けに寄り掛った。
恰度この時電話室の方でベルが聞え、やがて女中がやって来た。
「どなたか、鳥羽へお電話をお掛けになりましたか?」
「ああ僕です。有難う」
東屋氏は立ちあがって、そそくさとホールを出て行った。
私達はさっぱりわけがわからないので、ホールの中でキョトンと腰掛けたまま、ろくに話しも出来ずに東屋氏の帰りを待っていた。
が、十分程すると東屋氏は、折から後続の警官達が着いたと見えて、私とは顔馴染の警察署長を連れてやって来た。そして満面に、軽い和やかな微笑を湛えながら、
「さあ。これでどうやら、この事件も解決が出来ました。これからひとつ説明を致します。どうぞ別館《はなれ》の船室《ケビン》へお出で下さい。あちらの方に色々材料が揃っておりますから――」
そこで私達はホールを出た。深谷夫人は頭が痛むと云うので主館《おもや》に居止り、東屋氏と私と黒塚、洋吉の両氏、そして署長を加えた五人は、強い疾風の吹き荒《すさ》ぶ中庭を横切って、別館の船室《ケビン》――キャプテン深谷の秘密室《ブラック・チェンバー》へ走り込んだ。
六
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