は塗込められた男なぞないんですから、その考えは、自《おのず》から間違ったものになって来ます。むろん三人は、峯吉が塗込められたと勘違いしている、遺族からは、共通な恨みを買っているでしょう。ところが遺族の中には犯人はいないのでしょうからこれも又問題になりません。それではほかに被害者達の殺害される共通の理由はなかったかと云うと、いやそれがあるんです……私は、暫く前からそのことには気づいていましたが、被害者達は、皆一様に少しも早く発火坑を開放するための鎮火や瓦斯《ガス》の排出工合を検査している時に、殺されております。これを別様に考えると、仕事の邪魔をされたわけであり、あなたが発火坑を開放して少しも早く発火真相の調査にかかりたいという、そのあなたの意志の動きを阻害されたわけなんです。もっとハッキリ云えば、犯人は、ある時期まで、あなたに発火坑の内部を見られたくなかったのです。それで少しでも発火坑の開放を遅くらそうとしたのです」
「待ち給え」
再び係長が遮切った。
「いったいその犯人は、なにをそんなにわしに見られたくなかったのだ。さっき君と二人で、あの発火坑を調べた時には、この殺人事件と関係のある
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