一度発火当時の模様を、前に係長にしたと同じように繰返しはじめた。が、やがて、女の陳述が終ると、菊池技師は力を入れて訊き返した。
「では、もう一度大事なことを訊くが、お前が発火坑から逃げ出して、監督や技師や工手たちが駈けつけて防火扉を締め切ったその時には、確かにその場に峯吉は出ていなかったのだな?」
「ハイ、それに間違いありません」
お品は、腫れた瞼をあげながら、ハッキリ答えた。
技師は頭の中で何事か考えを整理するように、一寸眼をつぶったが、すぐに立上ると、電話室へ出掛けた。十分間もすると戻って来た。多分長距離電話であったのであろう。しかし戻って来た菊池技師は、抜け上った額に異様な決断を見せながら、お品を連れて、水平坑へはいって行った。
密閉された片盤坑の前には、二、三の小頭たちと一緒に、どうしたことか係長が、ドスを持ったまま蒼くなって立っていたが、技師を見ると、進み寄って口を切った。
「菊池君。どうも困った事になった」
「どうしたんです」
「それがその、全く変テコなんだ。実は、この片盤には犯人がいないんだ。坑道はむろんのこと、どの採炭場《キリハ》にも、広場にも、穴倉にも、探して見
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