な立場にあるんです。我々の前には隠れている犯人も、あなたの前にはきっと姿を見せますよ」
「成る程」係長が云った。「流石《さすが》熊狩りの先生だけあって、うまいことを云う」
 しかし菊池技師は、真面目で続けた。
「それで私は、ここでひとつお二人の前へ提案したいんですがね。つまり浅川さんに武器を持って頂いて、犯行の現場附近へ単身で出掛けて貰うんです。むろん私達は、あとから殿軍《しんがり》を承わる。武器さえ持って行けば、決して心配ないと思います。如何でしょう? こいつは、手ッ取早くていいと思うんですが」
 係長は直ぐに賛成した。
 監督は、一寸考えてから立上った。そして何処からかストライキ全盛時代に買入れたドスを一本持出して来ると、そいつの鐺《こじり》でドンと床を突きながら、
「じゃ、殿軍《しんがり》を頼みますよ」
 云い残して、ひどく悲壮な調子で出掛けて行った。
 係長と菊池技師は、少しばかり時間を置いて、監督の後に続いた。が、水平坑を通って発火坑のある片盤坑の前まで来ると、技師は立止って、係長へ云った。
「一時間この片盤坑の出入りを禁止したら、どれ位出炭が遅滞しますか?」
「なんだって、
前へ 次へ
全62ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング