悪いですね。なぜもっと、御自身の考えていられることを、アケスケに云ってしまわないんですか。いまあなたがどんな疑惑にぶつかっているか。むろん私にもそれは判る。そしてその疑惑が、どんなに子供っぽく、馬鹿気ているか、いや全く、論理をテンから無視したバカ話で、とてもまともに口に出せるような代物でないことも判ります。しかしその癖あなたは、その疑惑を頭から笑殺してしまうだけの勇気もないんでしょう。怒らないで下さいよ、係長。……そこで、そのあなたの頭痛の種を一掃してしまう手段が、ここに一つあります。なんでもないんですよ。発火坑を開放して見るんです。そうですね。発火当時にどれだけの熱が出たかは知れませんが、人間の骨まで燃えてなくなってしまうようなことは絶対にありませんからね」
「そりゃそうだ」と係長が云った。「鎮火も早かったんだからな。しかし、瓦斯《ガス》が出ている」
「でも排気してるんでしょう? だったら、そんなにいつまでも瓦斯《ガス》のある筈はないでしょうし、それに防毒面《マスク》だってあるんです。――あ、しかし、その前に係長」
 と技師はここで、なにか新らしい着想を得たと見えて、急に眼を輝し、辺
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