かし菊池技師の顔を見ると、幾分元気をとり戻した。そして直ちに発火坑の様子について説明しはじめたのであるが、いつの間にか話して行くうちに知らず知らず横道にそれて、発火事件が殺人事件に変ってしまうのだった。菊池技師もまた、始め単なる発火事件の処置を予期してやって来たのであるが、係長の訴えるような話を聞くうちに、段々その話のほうへ引き込まれて行った。係長は、丸山技師の殺害と四人の嫌疑者のことから、工手の殺害に峯吉の安全燈《ランプ》の不思議な出現に至るまで逐一詳細に物語ると、最後にぶつかってしまった大きな矛盾と、その矛盾からシミジミと湧き出して来る異様な一つの疑惑を、疑い深くそれとは云わずにそのままそっくり技師の耳へ畳みこんでいった。
「こいつアどうも、熊狩りみたいに面白くなりましたね」
菊池技師は、ひと通り係長の話を聴き終ると、そう云って事もなく笑ったが、内心ではかなり理解に苦しむと見えて、そのままふッと黙り込むと、困った風に考え込んでしまった。
「どうも、だし抜けにこんな変テコな殺人事件を聞かされたんじゃア勝手が違って戸惑いますよ」
やがて技師が口を切った。
「しかし係長。あなたも人が
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