置き忘れただって? よし、その坑夫が判ったら処罰するんだ」
 監督は苛立たしく呶鳴りつけた。係長は、そこらにうろうろしている運搬夫《あとむき》たちが、皆んな安全燈《ランプ》を持っているかどうかと見廻わした。むろん誰れも闇の世界で光を忘れているものはなかった。この場合、忘れると云うことは絶対にあり得ない。それは恐らく、忘れたのではなくて、故意に置いて行ったとよりとりようがない。故意に置いて行ったということになると、恐らくその坑夫は、光が不要であったか、それとも有っては却って邪魔になったか――しかしそんなことを詮索しているうちに、さっきの運搬夫《あとむき》の女が、炭車《トロ》を持たずに蒼くなって駈け戻って来た。
「は[#「は」は太字]の百二十一は、死んだ峯吉の……」
「なに?」
「ハイ、その峯吉ッつァんの安全燈《ランプ》だそうです」
「なんだって? 峯吉の安全燈《ランプ》……」
 係長は瞬間変テコな顔をした。
「待てよ。峯吉の安全燈《ランプ》……?」
 ――まさか、峯吉の安全燈《ランプ》が出て来ようとは思わなかった。峯吉では、いまはもう処罰のしようもない。いや、処罰の処罰でないのと云うより
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