ついて監督は闇の中へ消えて行った。
人びとが散り去ると、再び静寂がやって来た。闇の向うの水平坑道の方から、峯吉の母の笑い声が聞えたかと思うと、なにかがやがやと騒がしく引立てられて行くらしい気配が、炭車《トロ》の軋りの絶え間から聞えて来た。左片盤の小頭が、アンペラを持って来て、係長の指図を受けながら、技師の屍体の上へかぶせて行った。工手は切取られた排気管の前に立って、殺された技師の残した仕事をあれこれと弄《いじ》り廻していたが、急に身を起すと、
「係長。どうやら悪い瓦斯《ガス》が出たようです」
「君に判るのか?」係長が微笑を見せた。
「六ヶ敷いことは判りませんが、出て来る匂いで判りますよ。もう火は殆んど消えたらしいですが、くすぶったお蔭で悪い瓦斯《ガス》が出たらしいです」
係長は鉄管の側に寄ったが、直ぐに顔をしかめて、
「うむ、こりゃアもう、片盤鉄管へ連結して、この瓦斯《ガス》をどしどし流してしまわねばいかん。そうだ。匂いで判るな。じゃア君は、時どき調べてみて、瓦斯《ガス》の排出工合を見守ってくれ。わしはこれから坑夫を調べに行くが、その内には菊池技師も来てくれるだろう」
工手は鉄管
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