坑鬼
大阪圭吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)中越《ちゅうえつ》炭礦会社
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)海の底半|哩《マイル》の沖
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)こんなおせっかい[#「おせっかい」に傍点]
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一
室生岬の尖端、荒れ果てた灰色の山の中に、かなり前から稼行を続けていた中越《ちゅうえつ》炭礦会社の滝口坑は、ここ二、三年来めきめき活況を見せて、五百尺の地底に繰り拡ろげられた黒い触手の先端は、もう海の底半|哩《マイル》の沖にまで達していた。埋蔵量六百万|噸《トン》――会社の事業の大半はこの炭坑《やま》一本に賭けられて、人も機械も一緒くたに緊張の中に叩ッ込まれ、きびしい仮借のない活動が夜ひるなしに続けられていた。しかし、海の底の炭坑は、いかなる危険に先んじて一歩地獄に近かった。事業が繁栄すればする程地底の空虚は拡大し、危険率は無類の確実さを以って高まりつつあった。人々は地獄を隔てたその薄い命の地殻を一枚二枚と剥がして行った。
こうした殆んど狂気に近い世界でのみ、始
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