う風も静まって大分白み掛けた薄闇の中を、フル・スピードで疾走《はし》り続けながら、落ついた調子で、喬介は助役へ言った。
「これで、大体この事件もケリ[#「ケリ」に傍点]がつきました。で、最後にひとつお尋ねしますが、駅長が片腕になられたのは、いつ頃の事でしたか?」
「半年程前の事です。――何でもあれは、入換作業を監督している際に、誤って機関車に喰われたのです」
「ふむ。では、その機関車の番号を、覚えておりますか?」
すると助役は、首を傾《かし》げて、一寸記憶を呼び起す様にしていたが、急にハッとなると、見る見る顔を引き歪めながら、低い、嗄《しゃ》がれた声で、呻く様に、
「ああ。――2400形式・73号だ!」
それから数分の後――
荒れ果てた廃港の、線路のある突堤埠頭《ビヤー》の先端に、朝の微光を背に受けて、凝然と立|竦《すく》んでいた私達の眼の前には、片腕の駅長の復讐を受けた73号を深々と呑み込んだドス黒い海が、機関車の断末魔の吐息に泡立ちながら、七色に輝く機械油を、当《あて》もなく広々と漂わしていた。
[#地付き](「新青年」昭和九年一月号)
底本:「とむらい機関車」国書刊
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