その辺を探して見たが、勿論殺害に使われた兇器は発見《みつ》からなかった。そして線路の脇の血の雫の跡も、もうそれより以西には着いていなかった。
 司法主任は、第二の屍体の発見に依って自分の抱いていた疑いが微塵に砕かれてしまったためか、すっかりしおれて、黙々としていたが、やがて思い出した様に傍らの路面から、私はうっかり気付かなかったのだが、先刻《さっき》ここへ来た時に持って来て置いたらしい大型の撥形鶴嘴《ビーター》を取上げると、喬介の眼前へ差出しながら、
「やはり有りましたよ。こいつでしょう? 最初の屍体に加えられた兇器は。――あの貯炭パイルと、直ぐその東隣のランプ室との間の狭い地面に抛《ほう》り込んでありましたよ。ええ、無論その撥《ばち》形の刃先に着いていた砂は、顕微鏡検査に依って、貴方《あなた》の仰有《おっしゃ》った通り、あちらの屍体の傷口の砂と完全に一致しました。尚、柄《え》も調査しましたが、加害者は手袋を用いたらしく、指紋はなかったです」
 喬介はそれに頷きながら撥形鶴嘴《ビーター》を受取ると、自身で詳しく調べ始めた。が、その柄の端近くに抜かれた小指程の太さの穴に気付くと、貪る様に
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