いて行く私達の跫《あし》音などは、針程も聴えなかった。
 やがて前方の路上には遠方信号機の緑燈が現れ、続いて無数の妙に白けた燈光が、蒼白い線路の上にギラギラと反射し始める。そして間もなく――私達はW駅に着いた。
 赤、緑、橙等さまざまな信号燈の配置に囲まれて、入換作業場の時計塔が、構内照明燈《ヤード・ライト》の光にキッカリ四時十分を指していた。明るいガランとした本屋《ほんおく》のホームで、先着の内木司法主任と警察医の出迎えを受けた私達は、貨物|積卸《つみおろし》ホームを突切って直《ただち》に殺人の現場へ案内された。
 其処はW駅の西端に寄って、下り本線と下り一番線との線路に狭まれて大きな赤黒い鉄製の給水タンクが立っている薄暗い路面であるが、被害者の屍体は、給水タンクと下り一番線との間の、四|呎《フィート》程の幅狭い処に、数名の警官や駅員達に見守られながら発見当時のままで置かれてあった。
 被害者は菜ッ葉服を着た毬栗《いがぐり》頭の大男で、両脚を少し膝を折って大の字に開き、右|掌《て》を固く握り締め、左掌で地面を掻きむしる様にして、線路と平行に、薄く雪の積った地面の上に俯伏《うつぶせ》に
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