線側の梯子を、私は喬介と同じ一番線側の梯子を、それぞれ喬介の後に従って登って行った。
 直ぐに私達は、地面から二十|呎《フィート》とないその頂に達した。そして其処の鈍い円錐形の鉄蓋《やね》の上の、軽く積った粉雪の表面へ、無数に押し着けられたままの大きな足跡や、掌《て》の跡や、はては撥形鶴嘴《ビーター》を置いたり引摺ったりしたらしい乱雑な跡などを発見した。
 喬介は直《すぐ》に鉄蓋《やね》の上へ匐《は》い上った。――実際こんな処では、匐っていなければ墜ちてしまう――そして、その上の無数の跡に就いて調べ始めた。
 向うの梯子の上では、司法主任と並んで、興奮した助役が、唇を噛み締めながら喬介の仕草を見ていたが、とうとう堪え兼ねた様に、
「じゃあ、は、犯人は、ここから梯子伝いに機関車へ乗り移り、犯行後そのまま機関車で走り去ったに違いない。ね、走り去ったんでしょう?」
 すると喬介は笑いながら、
「何故貴下は、いつまでもそんな風に解釈したがるんですか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] ほら、これを御覧なさい。この足跡は、石炭|堆積台《パイル》の上にうず高く積み上げられた石炭の山から上って来て、こちらの一番線側の梯子口へ来ていると同時に、逆に、再び戻っているじゃないですか?」
 助役は、血走った眼で喬介の指差す方を追っていたが、やがてぶるぶる顫い出すと、あわてて腕時計を覗き込んだ。そして顫える声で、
「失敗《しま》った……大変なことになったぞ……」
 そう言ってそのまま蒼くなって、大急ぎで梯子を降りて行った。そして、保線係やH機関庫主任等を捕えて、乗務員なしで疾走し去った73号機関車が、その閉塞区間の終点であるN駅で、既に、当然惹き起したであろう恐るべき事故。そして又、そのために一体どんな責任問題が起るか――等々に就いて大騒ぎを始めた。

          五

 一方、鉄蓋《やね》の上の足跡を一心に調べていた喬介は、やがて私と司法主任に向って、
「じゃあ、犯行の大体の径路を、僕の想像に従って、話して見よう。――先ず、撥形鶴嘴《ビーター》を持った犯人は、あの貨物ホームの屋根から、ランプ室、貯炭パイルを伝って此処へやって来ると、先刻《さっき》の実験通り撥形鶴嘴《ビーター》に依る殺人装置を施して、蝙蝠《こうもり》の様にその梯子の中途にヘバリ着きながら73号のやって来るのを待ってい
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