逃げだした。ああしかし、僕はもう逃げ場を失ってしまった。よしんば逃げ場があったとしても、どうして傷付いたこの心が救われよう。
 鳩野君。僕は、僕のこの暗い旅の門出が、愛する春夫と二人であることに、せめてもの喜びを抱いて行こう。
 では、左様なら。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]三四郎

 窓の外には、いつの間にか夜風が出て、弔花のような風雪が舞いしきり、折から鳴りやんでいた教会の鐘が、再び嫋々《じょうじょう》と、慄える私の心を水のようにしめつけていった。
[#地付き](「新青年」昭和十一年十二月号)



底本:「とむらい機関車」国書刊行会
   1992(平成4)年5月25日初版第1刷発行
底本の親本:「新青年」
   1936(昭和11)年12月号
初出:「新青年」
   1936(昭和11)年12月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野晋
校正:小林繁雄
2006年9月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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