っさり墜されたと言って不思議がっていた言葉を思い出せばいい。――それからの夫人は、完全に悪魔になり切って、もう恐れる必要もなくなった『花束の虫』を破り捨てると、手提蓄音器《ポータブル》を携《たずさ》えて直ぐに別荘へ引返したのだ。そして、最も平凡な犯罪者の心理で、あんな風に証人の一役を買って出た――と言うわけさ。……兎に角この手提蓄音器《ポータブル》を開けて見給《みたま》え。夢中になって踊っていた時に、誤って踏割ったらしいレコードの大きな缺片と、それから、先程一寸僕が拝借した、いずれも同じスパニッシュ・ワンステップのレコードが四五枚這入っているから――」
大月はそう語り終って、煙草の吸殻を灰皿へ投げ込むと、椅子に深く身を埋めながら、さて、夫人の犯罪に対する検事の峻烈な求刑や、そしてそれに対する困難な弁護の論法などをポツリポツリと考え始めた。
[#地付き](一九三四年四月号)
底本:「「ぷろふいる」傑作選 幻の探偵雑誌1」ミステリー文学資料館・編、光文社文庫、光文社
2000(平成12)年3月20日初版1刷発行
初出:「ぷろふいる」
1934(昭和9)年4月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:大野 晋
2004年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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