よう。さあ、一つ拡大鏡でも仕入れて、もう一度屋上へ登ろう」
 私達は立上って食堂を出た。何時の間にか入り込んで来た外客のために、辺りは平常のざわめきに立ち返り、階下の楽器部から明朗なジャズの音が、ギャラリーを行き交う人々の流れを縫ってゆるやかに聞えていた。
 四階の眼鏡売場で中型の拡大鏡を手に入れた私達は、人々の波を分けて、再び屋上へ出た。事件のあったためか、一般の外客は禁足してあり、ただ数人の係員が、私達の闖入《ちんにゅう》に対して、好奇の眼を瞠《みは》っていたに過ぎなかった。
 喬介は眉根に深い皺《しわ》を刻まして首を傾けながら、屋上の隅から隅へ鋭い観察を投げ掛けていたが、やがて私を促して死体の落下点と思われる東北側の隅へやって来ると、拡大鏡を振り廻して先程よりも一層綿密に鉄柵や植込みを調べ始めた。が、間もなくフッと思い切った様に其処を離れると今度は、何事か記憶を思い浮かべるかの様に、小声でぶつぶつ呟きながら、西側の虎の檻に向って歩き出した。其処で喬介は、大きなアフリカ産の牡虎が、屈托気《くったくげ》に昼寝をしている姿を見詰めながら暫く深い思案に陥っていた。が、急に向き直って、晴れ
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