一の兇器である事に帰納する。だから被害者の持っていたあの幾個所かの擦過傷は格闘の際現場に転っていた[#「現場に転っていた」に傍点]奇妙な物体に依って外部的に受けたものではなくて犯人の手から[#「犯人の手から」に傍点]執拗に襲い掛って来る蛇の様な兇器に依って与えられたものなのだ。だが、推理を今後の過程に進めるに当って最も興味深い存在をなすものは、あの掌中に残された奇怪極まる擦過傷だよ。まさか君は、死人が綱引き遊びをしていたなんて言うまいね。
次に、あの無数の軽い擦過傷が明かに格闘に依って与えられた軽傷である事は、まさしく疑う余地がない。しからば格闘は、従って犯行は、どこで行われたか? 勿論、屋外であれ程判然たる他殺の痕跡を加えて殺害したものを、わざわざ運び込んで屋上から投げ墜《おと》し墜死に見せかけよう、なんてナンセンスは信じられない。しかもこの場合厳重な戸締りの問題がある。しからば次のデパートの屋内で犯行が行われたとの解釈はどうか? この解釈が肯定されるためには、被害者が殺害されるまでの格闘の際、一言の救助をも求めなかった、と言う驚くべき事実だ。従って犯行は最後の場所、即ち屋上で行わ
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