。意外にも黒豚の下腹部の皮膚であろう、と言う事に決定したんです!
 いやところが、この意外にも奇妙な決定を裏書する報告が、それから二時間程後にH駅所属の線路工手に依って齎《もた》らされました。と言うのはですな、H駅を去る西方約六|哩《マイル》、B駅近くの曲線《カーブ》になっている上り線路上に、相当成熟し切ったものらしい大きな黒豚の無惨なバラバラ屍体が発見されたんです。B駅と言うのは、多分御承知の事とは思いますが、県立農蚕学校の所在地として知られた同じ名の一寸した町にありましてな、その町の近郊の農家では副業としての養豚が非常に盛んなんです。で、多分、何かの拍子で豚舎の柵を飛び出した黒豚が、気ままにカーブ附近の線路を散歩中不慮の災難に出合ったものに違いない――とまあ、そんな風に機関庫の人々は片附けて、やがてこの事件も割合簡単にケリがついたんです。そして人の好いあくまで親切な「オサ泉」は、粗末ながらも新調の花環を操縦室《キャッブ》の天井へブラ下げて、再び仕事に就き始めました。
 すると、それから数日を経た或る朝、やはりH駅へ午前五時三十分着のD50・444号の車輪に、再び新しい黒豚のミソ[#
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