黒い染《しみ》がボンヤリ着いて見えるだけなんです。で、そんな場合には少し神経の春めいた男でしたなら、なんの事はないまるで肉屋の賄板《まないた》を掃除するだけの誠意さえあれば事は足りるんですが、一旦轢死者が、機関車の車台《トラック》のど真ン中へ絡まり込んで、首ッ玉を車軸の中へ吸い込まれたり、輪心《ホイル・センター》や連結桿《コンネクチング・ロッド》に手足を引掛けられて全速力で全身の物凄い分解をさせられた場合なんぞは、機関車の下ッ腹はメチャメチャに赤黒いミソ[#「ミソ」に傍点]を吹き着けられて、夥しい血の匂いを、発散するんです。そして又そんな時には、きまって被害者の衣服はそれが男の洋服であろうと女のキモノであろうと着ぐるみすっかり剥《は》ぎ千切られて、機関車の下ッ腹の何処かへ引ッ掛ってしまうんです。こんな場合の車の掃除が、所謂「ミソ[#「ミソ」に傍点]になる轢死者」でして、機関庫の人々をクサらせるんです。
ところで、いま、転車台でクルリと一廻りして扇形機関庫《ラウンド・ハウス》へ連れ込まれたD50・444号ですが、一寸調べて見ると、何処でいつの間に轢潰《ひきつぶ》して来たのか、こいつがそ
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