然として、
「勿論処置は取ってあります。しかしどうも、手不足でしてな」
「いや、何分《なにぶん》お願いします。でも、却って余り騒がない方がいいと思います。じゃあ、もうこれ位で……」
 助役はそう言って、部下の機関庫係員や案内役を促しました。そして一行は、間もなく静かな夕暮のB町を引挙げたんです。
 ――一体、機関庫助役の片山と言う人は、もう部下達も相当期間|交際《つきあ》ってたんですが、どうもまだ、時々人を不審がらせる様な変な態度に出るのが、彼等には甚だ遺憾に思われてたんです。何故って、例えばB町を引挙げた助役は、H機関庫に帰って来ると、直ちに翌日からまるで「葬式《とむらい》機関車」の奇妙な事件なぞはもう忘れてしまった様に、イケ洒蛙洒蛙《しゃあしゃあ》と平常《ふだん》の仕事を続け出したんです。二日|経《た》っても、三日経っても依然としてそのままなんです。で、堪えかねた部下の一人が五日目の朝になってその事を詰問? すると、その又返事が実に人を喰っとるんです。「だって君。何もする事がなければ仕方がないじゃあないか」――てんですよ。
 でも、その日の真夜中になって、助役のこの態度はガラリと一
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