私は、もう一度……いや、学生さん全く冗談じゃあないんですよ。本当にもういちど、同じ様な轢殺事件がもちあがったんです。――凡ての条件は、前三回と殆ど同じでした。轢殺《ひきころ》された豚は白豚で、トンネルの洞門みたいな猪鼻が……どうです、主働輪の曲柄《クランク》にチョコナンと引ッ掛って、機関車が走る度毎に風車《かざぐるま》の様にクルリクルリと廻ってるじゃあ有りませんか。
 岩瀬機関庫、七原《ななはら》検車所の両主任は、カンカンに怒ってしまいましたよ。――全く、悪戯にしては少し度が過ぎるんですからな。で、早速機関庫助役の片山さんを指揮者とする三名の調査委員を選抜して、B町へ出張調査させる事になったんです。
 さて、これから、その片山助役を大将とする連中の、奇妙な事件に対する所謂探偵譚――になる訳なんですがな、これが又なかなか面白いんです。で、まあとにかく、事件後その探偵連中から聞かされた知識の範囲内で、ひと通りお話いたしましょう。
 この片山機関庫助役と言う人は帝大出身のパリパリでしてな、まだ鉄道としては新人の方なんですが、頭もいいし人格もあるし、それになかなか機智に富んだ敏腕家でして、いま
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