巡査に案内を頼んで、四遍目の犠牲者を出した農家を訪ねる事が出来たんです。
その家の主人と言うのは、五十がらみの体の大きなアバタ面《づら》の農夫ですが、一行を迎えると、臆病そうに幾度か頭を下げながら穢《きたな》いムッとする様な杉皮|葺《ぶき》の豚舎へ案内しました。そしてそこで、盗まれた白豚は自分の家の豚の中でも最も大切にしていたヨークシャー系の大白種《だいはくしゅ》で六十貫もある大牝だとか、あんなにムザムザ機関車に喰われてしまったんでは泣くに泣けんと言う様な事を、鼻声で愚痴り始めたんです。
そこで片山助役は、安藤巡査へ、
「盗まれたのは、勿論轢かれた朝の夜中の事でしょうね?」
と訊ねました。
「四件ともそうです」
安藤巡査が答えました。
「一体どうやって盗み出すのですか?」
すると安藤巡査は、
「この低い柵の開き扉《ど》を開けると、眠っていても直ぐ起きて来ますからそいつへ干菓子《ひがし》をくれてやるんです。喜んで従《つ》いて来ます」
と、そこで助役が訊ねました。
「四遍共調査なさった結果、そうして盗まれたと言う事が判ったんですね?」
「そうです。四人の被害者の陳述は、大体そう言う風に一致しておりますからな」
すると助役が言いました。
「一寸ご面倒ですが、前後四件の、それぞれの日附を聞かして下さいませんか?」
「正確な日附ですか?……ええと」安藤巡査はポケットからノートを取出して、「ええ最初は、二月の、十一日……次が、ええ二月十八日……それから、二月二十五日。そして昨日《きのう》の三月四日――と、それぞれの午前五時頃までの真夜中です」
「……ははあ、じゃあやッぱり……いや、すると七日目毎に盗《と》られたと言う事になるじゃあないですか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] とすると、今日は月曜日ですから、日月《にちげつ》……と、つまり日曜日の朝毎に盗《と》られたんですね」と助役は暫く考えていましたが、やがて「……いま、この町で、日曜日、いや日曜以外の日でもいいんですが、とにかく一週間に一度ずつ定期的に繰返される一切の変化――それはどんなに一寸したつまらないものでもいいのですが、例えば、会社、学校が毎日曜日に休むとか床屋、銭湯が何曜日に休業するとか、或は又何かの市《いち》が毎週何曜日に立つとか、どんな事でもいいんですから、とにかくこの町で七日目毎に起る事を、全部一
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