江戸ッ子でさア、虫のいどころによっちゃアどんなことでも引受けかねない気性ですから、
「よござんす」思い切って引受けましたよ。
さアそれからいよいよ午後の公判です。ところが……全く、運がいいと云うもんですよ。裁判長が眼鏡を忘れて入廷したんです。で早速そいつを届けに判検事席へ上ったんですが、引ッ返す戸口のところで、こう向うの低いところにいる菱沼さんの方へ向けて、例のものを抜《ぬか》らずパチッとやらかし、そしてそのパチッて音をまぎらすようにバタンと扉《ドア》を締めたんですが、なんだかパチッて音のほうがひどく耳に残って、思わず冷汗をかきましたよ……しかし大丈夫でした。向うの傍聴人の中には、写真機をみつけた人があったかも知れませんが、大体うまくいきましたよ……なんしろあれが、あとにもさきにも、私の始めての写真撮りなんでして。
さて、ところで一方、公判廷なんですが……いやこれが実は、その日の公判のうちに、判決を済《すま》してしまいたいって検事さんの予定だったんだそうですが、先刻《さっき》も申上げたようになるべく判決を遅くらしてくれって青山さんの註文で、菱沼さん、ムキになってネバり続けた甲斐あっ
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