もわけ[#「わけ」に傍点]もいまだにみつからないってことになったんですから、菱沼さんが気狂いみたいになったのもムリないです。いやそうなると益々菱沼さんにはその三つの証言を偶然だなんて思えなくなって来て、それどころか「つぼ半」の女将ってのがトテツもなく恐ろしい女に思われて来て、自分だけがチョイチョイ出しゃばってえて[#「えて」に傍点]勝手な証言をするだけではなく、ひょっとすると、その合間合間のいろんな事件にも手下でも使って、面白半分四方八方メチャクチャの証言でもさしてるんではないか、いや、又そうなるとだいたい裁判所へ出て来る証人なんてものは殆んど全部がこの「つぼ半」の女将と同じデンではあるまいか、なぞと――もっともこれは平常《ふだん》でもチョイチョイ起る菱沼さんの変テコな頭の病気なんだそうですが……ま、とにかくそんなわけで、すっかり先生、途方に暮れちまったんですよ。
 そうして、いよいよ公判期日の前日になっても、その関係やわけ[#「わけ」に傍点]がみつからないと、とうとう菱沼さんは、思い余って、なんでも知人の青山《あおやま》とかいう人に、事情を詳しく打明けて、相談を持ちかけたんです。
 
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