の、なんのとが[#「とが」に傍点]も関係もなさそうなアカの他人の傍聴人達を、グルッと取巻いちまったんです。一網打尽って形ですよ……いや全く、面喰《めんくら》いましたよ……すると、真ッ先にその傍聴群の真中へんにいた、こうゴルフ・パンツとかって奴をはいた男が、鳥打帽子をひッつかんでバタバタと逃げだしたんです。むろん、直ぐに押えられましたよ。すると青山さんが、その男の前へ行って、
「あんたが、福田きぬさんの御亭主でしょう? ちょっと身体検査をさして貰います」
とすぐに警官の手によって上着をムキ取られてしまったんですが、するとどうです、チョッキのかくしから、茶色の封筒が一枚抜き出されて来たんですが、開けてみると、中から小さな紙片《かみきれ》が、なんでも十二、三枚出て来ましたよ……それでその紙片には「無罪 片岡八郎《かたおかはちろう》」だとか、「無罪 小田清一《おだせいいち》」だとか、「有罪 峰野義明《みねのよしあき》」だとか、まるでなんかの入れ札みたいな調子で、てんでに勝手な判決文みたいな、無罪だとか有罪だとかって文字が、名前と一緒に書いてあるんです……もっとも七分通りは無罪が多かったんですがね……いや、むろんそうしている間にも、捕えられた傍聴人達は、あっちこっちで各々抵抗したり、格闘したりしておりましたが、やがて主だった警官の命令で、全部引立てられ、いつの間にか裁判所の前に止まって待っていたトラックに積まれて、警察へ運ばれて行きました……。
一方、間の抜けた法廷では、やがて裁判長が立上がると、あとに残った少しばかりの人々に向って、
「都合により、判決は、明日に延期します」
ってやったんです。――静かなもんでしたよ……
いや、もうお判りになったでしょう……その連中は、妙な博奕《ばくち》を打ってたんですよ。なんでも、あとから詳しく青山さんの御説明を聞いたんですが、むろんこの首謀者は、「つぼ半」の女将の亭主なんですがね、これがまた、あとで泥を吐いたところによると、実に不敵な悪党でしてね、もうずっと以前《まえ》から法廷で博奕をやってたってんですよ。……つまり、常連の傍聴人になり済まして、傍聴しつつある窃盗事件や詐欺事件や、その他いろいろの事件に就いて、有罪か? 無罪か? と云うことに金を賭けて勝負を決するんです。なんでもゴルフ・パンツの云うことにゃ、こいつあ、どんな博奕
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