――何故《なぜ》恐《こは》くない。
答《こた》へていふには、
――何《なん》の恐《こは》いものですか、真白《まつしろ》な方《かた》ですもの。
この時《とき》涙《なみだ》はらはらと湧《わ》いて来《き》た。地面《ぢめん》に身《み》を伏《ふ》せ、気味《きび》の悪《わる》い唇《くちびる》ではあるが、土《つち》の上《うへ》に接吻《せつぷん》して大声《おほごゑ》に叫《さけ》んだ。
――あたしは癩病《らいびやう》やみぢやないか。
ティウトンの児《こ》はしげしげと視《み》てゐたが、透《す》きとほつた声《こゑ》で答《こた》へた。
――知《し》りません。
さてはわが身《み》を恐《こは》がらないのか、ちつとも恐《こは》いと思《おも》つてゐない。この児《こ》の眼《め》には、あたしの恐《おそ》ろしい白栲《しろたへ》が、御主《おんあるじ》のそれと同《おな》じに見《み》えるのだ。急《いそ》いであたしは一掴《ひとつかみ》の草《くさ》を毟《むし》つて、此児《このこ》の口《くち》と手《て》を拭《ふ》いてやつて、かう言《い》つた。
――安《やす》らかに、おまへの白《しろ》い御主《おんあるじ》の下《もと》
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