フ毛《け》の赤《あか》い、血色《けつしよく》の好《い》い児《こ》が一人《ひとり》通《とほ》る。こいつに眼《め》を付《つ》けて置《お》いたのだから、急《きふ》に飛付《とびつ》いてやつた。この気味《きみ》の悪《わる》い手《て》で、その口《くち》を抑《おさ》へた。粗末《そまつ》な布《きれ》の下衣《したぎ》しか着《き》てゐないで、足《あし》には何《なに》も履《は》かず、眼《め》は落着《おちつ》いてゐて、別《べつ》に驚《おどろ》いた風《ふう》も無《な》く、こちらを見上《みあ》げた。泣出《なきだ》しもしまいと知《し》つたから、久《ひさ》しぶりで、こちらも人間《にんげん》の声《こゑ》が聞《き》きたくなつて、口元《くちもと》の手《て》を離《はな》してやると、あとを拭《ふ》きさうにもしないのだ。眼《め》は他《よそ》を見《み》てゐるやうだ。
――おまへ、何《なん》て名《な》だと質《き》いてみた。
――ティウトンのヨハンネスと答《こた》へる其声《そのこゑ》が透《す》きとほるやうで、聞《き》いてゐて、心持《こゝろもち》が好《よ》くなる。
――何処《どこ》へ行《い》くんだと重《かさ》ねて質《き》いた。さう
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