なは》ちこれ幻想に非《あ》らずや。這般《しやはん》幽玄の運用を象徴と名づく。一の心状を示さむが為、徐《おもむろ》に物象を喚起し、或はこれと逆《さかし》まに、一の物象を採りて、闡明《せんめい》数番の後、これより一の心状を脱離せしむる事これなり。
[#地から1字上げ]ステファンヌ・マラルメ
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   白楊《はくよう》      テオドル・オオバネル

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落日の光にもゆる
白楊《はくよう》の聳《そび》やぐ並木、
谷隈《たにくま》になにか見る、
風そよぐ梢より。
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   故国      テオドル・オオバネル

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小鳥でさへも巣は恋し、
まして青空、わが国よ、
うまれの里の波羅葦増雲《パライソウ》。
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   海のあなたの   テオドル・オオバネル

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海のあなたの遙けき国へ
いつも夢路の波枕、
波の枕のなくなくぞ、
こがれ憧れわたるかな、
海のあなたの遙けき国へ。
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オオバネルは、ミストラル、ルウマニユ等と相結で、十九世紀の前半に近代プロヴァンス語を文芸に用ゐ、南欧の地を風靡《ふうび》したるフェリイブル詩社の翹楚《ぎようそ》なり。
「故国」の訳に波羅葦増雲《パライソウ》とあるは、文禄慶長年間、葡萄牙《ポルトガル》語より転じて一時、わが日本語化したる基督教法に所謂《いはゆる》天国の意なり。[#地から1字上げ]訳者
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   解悟《かいご》      アルトゥロ・グラアフ

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頼み入りし空《あだ》なる幸《さち》の一つだにも、忠心《まごころ》ありて、
   とまれるはなし。
そをもふと、胸はふたぎぬ、悲にならはぬ胸も
   にがき憂《うれひ》に。
きしかたの犯《をかし》の罪の一つだにも、懲《こらし》の責《せめ》を
   のがれしはなし。
そをもふと、胸はひらけぬ、荒屋《あばらや》のあはれの胸も
   高き望に。
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   篠懸《すずかけ》      ガブリエレ・ダンヌンチオ

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白波《しらなみ》の、潮騒《しほざゐ》のおきつ貝なす
青緑《あをみどり》しげれる谿《たに》を
まさかりの真昼ぞ知《しろ》す。
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