に。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
伴奏 アルベエル・サマン
[#ここから1字下げ]
白銀《しろがね》の筐柳《はこやなぎ》、菩提樹《ぼだいず》や、榛《はん》の樹《き》や……
水《みづ》の面《おも》に月の落葉《おちば》よ……
夕《ゆふべ》の風に櫛《くし》けづる丈長髪《たけなががみ》の匂ふごと、
夏の夜《よ》の薫《かをり》なつかし、かげ黒き湖《みづうみ》の上、
水|薫《かを》る淡海《あはうみ》ひらけ鏡なす波のかゞやき。
楫《かぢ》の音《と》もうつらうつらに
夢をゆくわが船のあし。
船のあし、空をもゆくか、
かたちなき水にうかびて
ならべたるふたつの櫂《かい》は
「徒然《つれづれ》」の櫂「無言《しじま》」がい。
水の面《おも》の月影なして
波の上《うへ》の楫の音《と》なして
わが胸に吐息《といき》ちらばふ。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
賦《かぞへうた》 ジァン・モレアス
[#ここから1字下げ]
色に賞《め》でにし紅薔薇《こうそうび》、日にけに花は散りはてゝ、
唐棣花色《はねずいろ》よき若立《わかだち》も、季《とき》ことごとくしめあへず、
そよそよ風の手枕《たまくら》に、はや日数経《ひかずへ》しけふの日や、
つれなき北の木枯に、河氷るべきながめかな。
噫《ああ》、歓楽よ、今さらに、なじかは、せめて争はむ、
知らずや、かゝる雄誥《をたけび》の、世に類《たぐひ》無く烏滸《をこ》なるを、
ゆゑだもなくて、徒《いたづら》に痴《し》れたる思、去りもあへず、
「悲哀」の琴《きん》の糸の緒《を》を、ゆし按《あん》ずるぞ無益《むやく》なる。
*
ゆめ、な語りそ、人の世は悦《よろこび》おほき宴《うたげ》ぞと。
そは愚かしきあだ心、はたや卑しき癡《し》れごこち。
ことに歎くな、現世《うつしよ》を涯《かぎり》も知らぬ苦界《くがい》よと。
益《よう》無き勇《ゆう》の逸気《はやりぎ》は、たゞいち早く悔いぬらむ。
春日《はるひ》霞みて、葦蘆《よしあし》のさゞめくが如《ごと》、笑みわたれ。
磯浜《いそはま》かけて風騒ぎ波おとなふがごと、泣けよ。
一切の快楽《けらく》を尽し、一切の苦患《くげん》に堪へて、
豊《とよ》の世《よ》と称《たた》ふるもよし、夢の世と観《かん》ずるもよし。
*
死者のみ
前へ
次へ
全41ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング