たいどうして手に入れた」
「ふ、ふむ。これは少々いわくがある」
「いわくとは何だ」
「実はこうだ。我らもかねてから生食はのどから手が出るほど欲しかつたのだ。ところが、一足さきにおぬしがおねだりをして断られたという話を聞いた。お気にいりの源太にさえお許しがなかつたとすれば、我らごときがいかほどお願い申してみたところで所詮むだなことは知れている。といつてこのたびの合戦にしかるべき馬も召し連れず、おめおめ人に手がらを奪われるのは口惜しい。ええままよ! 御勘気をこうむらばこうむれ。手がらの一つも立ててのちにお詫びの申しようもあろうと腹を決め、出陣の夜のどさくさにまぎれて――」
「盗んでのけたか?」
「うむ、盗んでのけた!」
「はははは、なあんだ。そんなことなら我らが一足さきに盗めばよかつた。ははははは――」
 もちろんこれは四郎のうそで、彼はちやんと頼朝からもらつてきているのだが、源太のただならぬ顔色を見ると同時にさつそく気転をきかして脚色をしてしまつた。しかし、源太はあくまでも源太だから悪く気をまわしてそれを疑つたりはしない。四郎の一言で今までの低気圧がたちまち雲散霧消して、光風霽月、かんら
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