る。しかし私はできればそういうところから早く抜け出したいと思つていたし、また彼の才気といえども決して天啓のごとく人の心を照すような深いものではなかつた。
 ことわつておくが私は決して山中の作品をけなすために病中をしのんでまで筆を起したのではない。のち、直接山中の人間と相識るにおよんでその人間とその作品とを比較検討するに、どうも作品のほうが大分人間に敗けているように思われてならない。したがつてその人間に対する比例からいつても彼の作品をこの程度にけなすことはこの場合絶対に必要なのだ。
 私が初めて山中と口をきいたのはいつのことか、いくら考えてみても思い出せないのであるが、いずれにしてもそれは監督協会創立当時、そのほうの必要からいつとはなしに心安くなつたものに相違ない。したがつて我々の交際はいつも集会の席上にかぎられていて、さらに進んで互の居宅を訪問するとか、あるいは酒席をともにするとかいうところまではついに進展しないでしまつた。
 だから私は彼の私生活の片鱗をも知らない。また長鯨の百川を吸うがごとき彼の飲みつぷりにも接したことがない。にもかかわらずほんの二度か三度会ううちに私はすつかり山中
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