年の後半期においてはそのようなことはすでに夢となっているだろうし第一もはや工作の余地そのものが皆無となっているに違いない。
おそらく四月には敵は本土上陸を断行するだろう。しかも我はやすやすとそれを許すだろう。上陸されたら最後我には抵抗力はないものと断じてまちがいはない。これは過去のあらゆる戦績がこれを証明して余りあるところである。戦国時代のごとき斬込み戦法で三十や五十殺したところで近代兵器の殺戮力はそれを数十倍数百倍にして返すだろう。現代の戦争において近代兵器を持たない出血戦術などいうものが成り立つものかどうかは考えるまでもないことである。
現在のままで戦争をつづけるかぎりすべては絶望である。唯一の道はいかなる条件にもせよ一旦戦争を終結させて、科学に基礎を置いた国力の充実を計り、三十年五十年後の機会を覗《うかが》うこと以外にはあるまいと思う。科学を軽視した報いがいかなるものか。物力を軽蔑した結果がいかなるものか。民力、民富の発展を抑制した罰がいかなるものか。それらの教訓こそはこの戦争が日本に与えたあまりにも痛切な皮肉な贈物というべきであろう。
底本:「現代日本思想大系 14 芸術の思想」筑摩書房
1964(昭和39)年8月15日発行
入力:土屋隆
校正:染川隆俊
2008年1月25日作成
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