具や調度を磨いたり眺めたりするのが唯一の道楽のようである。
今までに彼女をもつともひきつけたのは宮沢賢治で、今も宮沢賢治一点ばりである。別に芸術価値がどうというのではなく「こんな心の綺麗な人はいない」といつて崇拝しているのである。
その他で一番おもしろがつたのは『シートン動物記』で、これは六冊息もつがずに読んでしまつた。
映画。映画はあまり好きではない。たまに亭主の作品でも出ると見に行くこともあるが、行かないこともある。その他はほとんど見ないようだ。いつか原節子が見舞いに寄つたとき、玄関に出て「どなたですか」ときいたくらいだから、その映画遠いこと推して知るべしである。
行儀
行儀、ことにお作法はむちやである。ねている亭主のところに来て、立つたまま話をする。枕の覆いを洗濯するとき、黙つていきなり私の頭の下から枕を引き抜く。私の頭は不意に三寸ばかり落下する。朝掃除に部屋へはいつて来ると、まずそこらの畳の上にほうきをバタンと投げ出して、いきなりパタパタとはたきをかけ始める。これで娘時代相当にお茶をやつたというのだから、あきれる。そして、彼女の言葉はまたそのお作法に
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