を甘受する事とした。この行動を可能ならしむるためにはリュッチヒ(リエージュ)をなるべく速やかに領有せねばならない。そこでこの要塞を奇襲により攻略する計画が成立した」と記している。
 オランダの中立を侵犯しないとせば独軍の主力軍がマース左岸に進出するのにオランダ国境からナムール要塞の約七十キロを通過せねばならず、この間にフイの止阻堡とベルギーの難攻不落と称するリエージュの要塞がある。リエージュは欧州大戦で比較的簡単に(それもこの計画の責任者とも云うべきルーデンドルフが偶然この攻撃に参加した事が有力な原因である)陥落したため、世人は軽く考えているが、モルトケとしては国軍主力のマース左岸への進出に、今日我らの考え及ばぬ大煩悶をしたのを充分察してやらねばならぬ。
 敵は既にアルザス・ロートリンゲンに対し攻撃を企図している事は大体諜報で正確だと信ぜられて来た。ところがロートリンゲンのザール鉱工業地帯のドイツ産業に対する価値は非常に高まっている。もちろん決戦戦争に徹し得れば、一時これを犠牲とするも忍ばねばならないとの断定をなし得るのであるが、持久戦争への予感のあったモルトケとしてはこれも忍びない。
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