整いたる運動は平時の演習に於てすら非常な技術を要する。敵火の下ではたちまち混乱に陥ることは明らかであり、また地形の影響を受くる事は極めて大きい。
 殊に前進と射撃との関係を律する事は殆んど不可能に近い。すなわち一度停止して射撃を始める時は最早整然と発進せしむる事は云うべくして行ない難い。砲兵の威力は頼むに足らない。
 以上の諸件は攻撃の威力を甚だしく小ならしむるものである。すなわち一方軍が会戦の意志なく、地形を利用して陣地を占領する時は攻撃の強行は至難であった。
 又たとい敵を撃退せる場合に於ても軽挙追撃して隊伍を紊《みだ》る時は、敗者のなお所有する集結せる兵力のため反撃せらるる危険甚大で、追撃は通常行なわれず、徹底的な戦捷の効果は求め難かった。
 3、倉庫給養
 三十年戦争には徴発に依る事が多かったが、そのため土地を荒し、人民は逃亡したり抵抗したりするに至って作戦に甚だしい妨害をしたのである。それ以来反動として極端に住民を愛護し、馬糧以外は概して倉庫より給養する事となった。
 傭兵の逃亡を防ぐためにも給養は良くしなければならないし、徴発のため兵を分散する事は危険でもあり、殊に三十年戦
前へ 次へ
全319ページ中175ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石原 莞爾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング