るのに対し、あるドイツ人が「日本は離婚した女に未練を持っている有様だ」と冷笑した事があった。これらも日本人は根本に於ては、外交に於ても道義を守るべしとの考えが西洋人に比して遥かに強い事を示している一例とも考えられる。
 日本の戦争は主として国内の戦争であり、かつまた民族性が大きな力をなして戦の内に和歌のやりとりとなったり、或いは那須与一の扇の的となったりして、戦やらスポーツやら見境いがつかなくなる事さえあった。
 東亜大陸に於ても民族意識は到底西洋に於ける如く明瞭でなかった。もちろん漢民族は自ら中華をもって誇っておったものの、今日東亜の大陸に歴史上何民族か判明しない種族の多いのを見ても民族間の対立感情が到底西洋の如くでなかったことを示している。かく東洋は王道文明発育の素地が西洋に比し遥かに優れている。
 これに加うるに東洋に於ては強大民族の常時的対立が無く、かつ土地広大のため戦争の深刻さを緩和する事が出来た。欧州では強大民族が常に対立して相争いかつ地域も東亜の如く広くなく、戦争術の発展が時代文明との関連を表わすに自然に良い有様であった。
 覇道文明のため戦争の本場であり、かつ優れたる選
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